ホーム > 医療 > 医学的知見 >  

心臓カテーテル検査

以下の判例から
平成18年 5月18日 東京地裁 判決 <平15(ワ)18424号>
請求棄却
要旨
経皮的冠動脈形成術(PTCA)を受け入院していた患者が、心臓カテーテル検査を受けた際に肺動脈損傷による出血性ショックにより死亡した事案につき、被告担当医師が上記検査を行ったことには相応の合理性があり、検査の危険性についての説明義務違反、検査の際の操作ミスなどもなかったとして、医師の過失が否定された事例
出典 ウエストロー・ジャパン


 1 争点(1)(適応がないにもかかわらず本件検査を実施した過失の有無)について
  (1) 証拠(甲B2、4、7、8、乙B1、2、10)によれば、本件検査の適応及び禁忌について、以下の医学的知見が認められる。

   ア 心臓カテーテル検査は、心臓病の診断、重症度の判定等のために、心内圧測定、各部位の採血と酸素飽和度の測定、心拍出量の測定、心血管造影などをすることを目的とした検査であり、血行動態検査と造影検査を組み合わせたものである。例えば、心不全又は心筋梗塞患者の血行動態の評価のため、心臓手術後の血行動態の評価のため、術後の心機能の評価や手術成績の確認のため、その他右室、左室又は肺動脈などに異常が存在することが強く疑われるときの確認のためなどに、広く行われている。
 心臓カテーテル検査のうち右心カテーテル検査は、心不全の有無やその程度の把握に有用である。他方、純粋な狭心症の場合、術前の心エコー検査の結果左室壁運動異常が全くない場合などにおいては、右心カテーテル検査をしても血行動態に異常がみられることはまずないので、この検査による血行動態計測の診断的意義はほとんどない。また、血行動態計測以外の右心カテーテル検査(右室や肺動脈の造影検査、血液ガス計測など)は、特殊な病態の場合を除き、虚血性心疾患には不必要である。

   イ 本件検査に絶対的禁忌はないが、心エコー検査など非侵襲的な検査により診断や治療の決定を下すために必要な情報が得られることもあることから、〈1〉 有熱性疾患を合併している患者、〈2〉 著明な出血傾向のある患者、〈3〉 非代償性の心不全で臥位が不可能な患者、〈4〉 造影剤に対する重篤なアレルギーがある患者、〈5〉 重篤な腎不全がある患者、〈6〉 80歳を越える高齢者など(ただし、〈4〉及び〈5〉は造影検査を行う場合)では、検査によって得られる利益と合併症による不利益とを十分勘案して適応を決める必要がある。
 また、心臓カテーテル検査の実施に当たっては、術者の知識や技術の程度、施設等の状況などの医師・病院側の事情も考慮すべきものとされている。


 2 争点(2)(本件検査の危険性等について説明を怠った過失の有無)について
  (1) 証拠(甲B5、6、8、乙B4)によれば、本件検査の合併症について、以下の医学的知見が認められる。

 心臓カテーテル検査の合併症としては、バルーンの破裂に伴う傷害、不整脈、肺梗塞、肺動脈の穿孔と破裂、感染等がある。
 心臓カテーテル検査に伴う死亡事故の比率については、いずれも外国の心臓血管造影学会による報告であるが、66施設において14か月間にわたって実施した心臓カテーテル検査5万3581件中75件が、また、1984年7月1日から1987年12月31日までの間に実施した冠動脈造影検査22万2553件中218件が死亡例であったというものがあり、これによればおおむね0.1%程度ということになる。また、スワン−ガンツカテーテルに関連した肺動脈破裂の発生率については、これもまた外国の報告ではあるが、大規模民営教育病院における1975年から1991年の17年間の3万2442件を対象に分析したところ、その率は0.031%であったとされている。


 3 争点(3)(本件検査においてカテーテルの操作等を誤った過失)について
  (1) 証拠(甲B4、6、8、9、乙B3、被告Y2本人)によれば、本件検査、特に右心カテーテル検査を行う際の手技について、以下の医学的知見が認められる。

   ア 右心カテーテル検査を行う際には、まず静脈を穿刺してシースを挿入し、そのシースを通してバルーンカテーテルを挿入する。カテーテルが血管内に入ったところでヘパリン加生食水を注入する。バルーンカテーテルの先端がシースから出たところで、バルーンを膨張させてこれを血流に乗せてカテーテルを右心房、右心室へ進める。バルーンを膨張させたまま、さらに肺動脈へ進め、バルーンが膨らんだ状態でカテーテルの先端が進まなくなり、楔入圧波形を呈したところで楔入圧を測定する。楔入圧波形を示さないときには、いったん少し引き、向きを変えて進めていく。なお、楔入圧を測定する方法としては、上記のほかに、測定する位置で、徐々にバルーンを膨らませ、肺動脈圧が楔入圧に変わるのが確認されたら、バルーンを膨らますのを中止して測定するという方法もある。
   イ バルーンを膨らませておくのは必要最小限の時間に限るべきである。楔入圧を測定したらすぐにバルーンをしぼませることが重要で、特に肺高血圧の患者では、できるだけ短時間に限るべきである。バルーンを膨らませたままで放置すると、特にカテーテルの先端が末梢肺動脈にあるときには動脈壁のびらんを起こし、穿孔して大量の喀血をみることがある。
タイトル
お名前
email
ご感想
ご確認 上記内容で送信する(要チェック


 


   ホーム > 医療 > 医学的知見 > 心臓カテーテル検査