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血圧の管理、降圧治療、脳出血

以下の判例から
平成18年 5月17日 東京地裁 判決 <平16(ワ)21241号>
一部認容
要旨
脳出血で入院した患者につき、患者の容態が明らかに異なった時点で直ちにCTスキャン撮影をして脳出血の状態を確認し、脳圧の降下などで対処できるのであれば直ちにこれを行い、また、それでは対処できないのであれば、直ちに外科的治療等のできる病院に転院の手続を行うべき注意義務があったにもかかわらず、これを怠った過失があるとされた事例
出典 裁判所ウェブサイト、ウエストロー・ジャパン


 2 脳血管障害の治療に関する医学的な知見
 証拠(甲B7ないし15、乙A14、乙B1、証人B、証人E及び証人F)によれば、次の事実を認めることができる。

  (1) 血圧の管理の在り方
 脳血管障害(脳梗塞及び脳出血等を含む脳血管の異常により虚血又は出血を起こし、脳が機能的又は器質的に侵された状態)の急性期における降圧等の血圧管理の在り方に関しては、確立した見解はない。
 もっとも、降圧は脳血流を減少させることから、既に出血により乏血状態となっている病変部の脳組織の障害を更に増大させる危険があること及び降圧を行わなくとも、安静並びに疼痛及び不安の除去等の対症的処置により自然に降圧することが多いことなどから、積極的な降圧治療は原則として行わない。この点について、高血圧治療ガイドライン2000年版(甲B11。日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会編集)中でも、脳卒中(その記載内容から、脳梗塞及び脳出血を含む脳血管障害の趣旨で用いられているものと認められる。)の急性期において、積極的な降圧治療は原則として行わないとされているところである。
 脳血管障害のうち脳出血に関しては、血腫の拡大を防止する目的で降圧を行うことが少なくないが、この処置については、上記のとおり、降圧により脳循環が悪化する危険があることなどから、臨床的に有効か否かについては明らかではなく、確立した見解はない。そのため、脳出血急性期の患者に対しては降圧を行ってもよいとされるにとどまっている。

  (2) 降圧治療対象、降圧目標及び方法について
   ア 脳血管障害における降圧治療対象、降圧目標についても、上記(1)説示のところから、確立した見解はないが、おおむね収縮期血圧が220mmHg又は平均血圧が130mmHg以上の場合は、降圧治療対象とされることが多い。上記高血圧治療ガイドライン2000年版でも、「著しく血圧が高い場合は脳卒中急性期であっても降圧治療を行うが、どの血圧レベルから降圧治療を開始するかについては正確な成績がないのが現状である。」としつつ、上記の場合に加え、拡張期血圧140mmHg以上持続を降圧治療対象としている。
   イ 脳出血についても降圧治療対象、降圧目標について確立した見解はないが、脳梗塞に比してやや低い血圧レベルから治療を開始するとされる。具体的には、おおむね収縮期血圧が200mmHg以上の場合を降圧治療対象として、20%程度又は160ないし180mmHgを目標に降圧を考慮するとされており、上記ガイドラインにおいては「脳出血に関しては(脳梗塞に比し)更に異論が多いが、脳梗塞に比しやや低い血圧レベルから治療を開始する」として、その場合の降圧目標は上記アの値の80%とされている。
 なお、5学会合同脳卒中治療ガイドライン(暫定版)(甲B7。日本脳卒中学会、日本脳神経外科学会、日本神経学会、日本神経治療学会及び日本リハビリテーション医学会で構成される脳卒中合同ガイドライン委員会が平成15年に発表した脳卒中の治療ガイドライン)中では、脳出血の血圧の管理に関して、「脳出血急性期の血圧に関しては、収縮期血圧>180mmHg、拡張期血圧>105mmHg、または平均血圧>130mmHgのいずれかの状態が20分以上続いたら降圧を開始すべきである。収縮期血圧<180mmHgかつ拡張期血圧<105mmHgでは降圧薬をすぐに始める必要はない。」旨をグレードC1の推奨(行うことを考慮しても良いが、十分な科学的根拠がない類型)としている。

  (3) 降圧及び血圧測定の方法
 降圧は、急激な血圧の低下に注意して行うこととされ、その方法としては降圧剤の持続静注、経口投与及び注射投与がある。もっとも、注射による降圧治療は可能な限り短期間とし、経口治療に変えるべきとされる。
 降圧治療を行うに当たり、血圧は頻回に測定することとされるが、明確な基準はなく、脳血管障害の場合の目安として、拡張期血圧が140mmHg以下の場合は、一応の安静が得られた後に、20分以上の間隔をおいて少なくとも2回の計測を行うとされている。その際は、観血持続測定によるのが理想であるが、無理な場合には携帯型自動血圧計などの使用を考慮する。

  (4) 脳出血における外科的治療の適応
 脳出血に対する外科的治療の適応は、出血部位、血腫量及び神経学的重症度などにより決まる。視床出血の場合は、脳深部の出血であるため、一般的に手術適応はない。血腫が脳室に穿破して急性水頭症が起きた場合は脳室ドレナージを行う。

  (5) 脳浮腫及び頭蓋内圧亢進の管理
 高張液グリセロールの静脈内投与は、脳浮腫を改善し、脳代謝を改善することから、頭蓋内圧亢進を伴う大きな脳出血の急性期に推奨される(その推奨レベルは、行うよう勧められるとするグレードBである)。
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