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アナフィラキシー

以下の判例から
平成18年 4月27日 東京地裁 判決 <平14(ワ)27719号>
請求棄却
要旨
被告の開設する病院において造影剤を使用した頸部CT検査を受けたAがアナフィラキシーショックを起こして死亡したことに関し、Aの夫及び子である原告らが、当該死亡は、@当該検査の実施を決定した耳鼻科の担当医師が造影剤の副作用等についての説明を怠ったこと、A当該検査を実施した放射線科の担当医師において救命救急措置を怠ったこと、B被告においてアナフィラキシーショックに対する短期集中的な処置を可能にするシステム構築を怠ったことなどによるものであると主張し、損害賠償を求めた事案について、仮に被告病院の担当医師らに原告主張の過失が認められるとしても、それらの過失とAの死亡との因果関係が認められないとして請求を棄却した事例
出典 裁判所サイト、ウエストロー・ジャパン


別紙 医学的知見

 1 アナフィラキシー(甲B23,27ないし29,調査嘱託の結果)
  (1) 病態
 アナフィラキシー反応とは,特定のアレルゲンに感作された者が,再度アレルゲンに曝露されることにより発現するIgEによる即時型過敏症反応をいう。一般に,蜂毒アレルギーや薬物アレルギー,ゴム製品によるラテックスアレルギー,寒冷蕁麻疹等がこれに属する。
 他方,アナフィラキシー様反応とは,IgEによる抗原抗体反応によらず,肥満細胞・好塩基球が直接に刺激される病態をいう。非ステロイド系薬剤,造影剤,血液製剤や輸血等による反応がこれに属する。
  (2) 原因物質
 あらゆる物質が原因となり得る。原因として多いのは,薬剤(抗菌薬,非ステロイド抗炎症剤,抗癌剤等),昆虫(蜂等),造影剤,血液製剤,食品(海産物,牛乳,そば,ピーナッツ等)である。
  (3) アナフィラキシーの症状
   ア 原因物質に曝露した後,数秒から数分後に症状が発現するのが通常であるが,1時間以上経てから発現する遅発性のものもある。いったん初期の救命に成功しても,数時間後に遅発性に症状が再燃して命に関わる場合もある。
 前駆(初期)症状として,@全身症状(生あくび,寒気,不安感,冷や汗),A皮膚粘膜症状(眼瞼掻痒感,流涙,鼻汁,口内違和感,口唇の痺れ,皮膚掻痒,皮膚紅潮,発赤),B神経症状(めまい・立ちくらみ,耳鳴り,四肢の痺れ),C循環器症状(動悸,心悸亢進,頻脈,胸部不快感),D呼吸器症状(くしゃみ,咳嗽,喘,呼吸困難感),E消化器症状(吐き気,嘔吐,嚥下困難,腹痛,尿意,便意)がある。
 進行した症状として,@全身症状(意識障害),A皮膚粘膜症状(結膜充血,鼻閉,手足の冷感・湿潤,皮膚蒼白,蕁麻疹,血管性浮腫),B神経症状(意識喪失,痙攣),C循環器症状(脈触知不良,血圧低下,チアノーゼ,頻脈,不整脈,ST
T変化),D呼吸器症状(喉頭浮腫,気管支攣縮,喘鳴,喘息発作,肺水腫,窒息),E消化器症状(尿,便失禁,下痢)がある。
   イ アナフィラキシーショック
 アナフィラキシーショックとは,アナフィラキシーに起因する気道閉塞による呼吸不全や血管から組織への水分移行によるhypovolemic shock(血液量減少性ショック,乏血性ショック)を主にした循環不全の強い病態をいう(アナフィラキシー様反応に起因するショックについては,特に,アナフィラキシー様ショックということがあるが,以下,これらを区別せず,単に「アナフィラキシーショック」という。)。
  (4) 治療
 造影剤によるアナフィラキシーショックに対する治療は,可能な限りの人的・物的資材を集めて,意識の有無を確認した上で呼吸及び循環を維持することが基本となる。その治療方法は以下のとおりである。
   ア 気道確保・酸素投与
 気道を確保してマスクによる酸素投与を行う。喉頭浮腫等による上気道閉塞の所見があるなど呼吸困難が高度であれば気管内挿管をする。気管内挿管が困難な場合には,緊急気管切開を考慮する。
 アナフィラキシーショックの場合,喉頭浮腫等によって短時間で気道閉塞状態に陥る可能性があり,そうなるとバッグマスク換気や気管内挿管が困難となるため,気管内挿管や気管切開を常に念頭に置いて対処する必要がある。
   イ 静脈路確保・急速細胞外液輸液
 静脈路を確保した上で,通常1000ml以上の細胞外液(生理食塩水,乳酸加リンゲル液等)を短時間で投与する。
   ウ 薬剤投与
 第1選択として速やかにエピネフリン(製品名ボスミン)を投与し,必要に応じてこれを繰り返し投与する。エピネフリンは,交感神経刺激作用,末梢血管収縮作用,気管支拡張作用を持つ。なお,βブロッカー服用中の患者には,エピネフリンの効果がないため,グルカゴンを投与する。
 気管支攣縮が問題となっている場合には,吸入βアドレナリン作動薬を投与する。
 副腎皮質ステロイドは,即効性を期待することができないが,遷延性,遅発性の反応を抑制する効果があるものとされている。抗ヒスタミン薬についても,即効性は乏しいが,症状の遷延化防止を目的として投与されることがある。
   エ 心肺停止に対する処置
 心肺停止があれば,絶え間ない心臓マッサージと換気を徹底する。

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