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肺水腫

以下の判例から
前掲
平成18年 4月27日 東京地裁 判決 <平14(ワ)27719号>


 3 肺水腫(甲B8,21,22)
  (1) 病態
 肺水腫とは,肺の血管外領域に多量の水分が貯留した病的状態をいう。
 健常者において肺毛細血管から周囲の間質組織に漏出した漿液性液体は,間質リンパ流を介して最終的には体静脈系に入るため,正常では過剰な血管外水分は残留しない。しかし,この均衡が破れると肺の間質水分量が増加して間質性肺水腫をきたし,さらに進行すると肺胞腔内にも漏出するようになって肺胞性肺水腫となる。
 気管支周囲の浮腫,更に進行すると気道が水腫液で閉鎖されるため,気道の通過障害が生じ,換気血流比の不均衡等とともに肺活量が減少し,肺間質の浮腫により肺コンプライアンスも低下する。さらに,肺胞表面活性物質の流出は肺胞の虚脱を促進し,無気肺の形成を助長するとともに,肺の機械的性質に大きな影響を及ぼす。
  (2) 成因
   ア 肺水腫は成因により,血行動態性肺水腫と透過性亢進性肺水腫の2つに大別される。
 血行動態性肺水腫の代表的なものとしては,僧帽弁疾患や各種の器質的あるいは機能的心疾患に基づく左室不全によるもので,心原性肺水腫とも呼ばれる。
 他方,透過性亢進性肺水腫は,敗血症,ショック及び外傷等に伴って発症する急性呼吸促迫症候群(ARDS)に代表されるタイプの肺水腫(非心原性肺水腫)で,一般的に心不全は伴わず,気道内浮腫液は毛細血管壁透過性亢進を反映して高濃度の蛋白を含み血漿の70%以上となる。水腫液の肺胞腔内貯留から,肺胞表面へ硝子膜が形成され,肺線維症へと進展することもあり,発生頻度としてはそれほどでもないが,致死率は高く極めて難治の疾患といえる。
   イ ヨード造影剤投与後に肺水腫が現れることがある。造影剤投与後の肺水腫は稀な副作用であり,水溶性ヨード造影剤(イオン性)による肺水腫の発現率は0.001〜0.08%との報告がある。
 発現機序については,主として造影剤の化学毒性による肺毛細血管内皮損傷,補体活性化を介した反応,アレルギー反応に伴う上気道閉塞等が引き金となり,肺毛細血管の透過性亢進が起こるためではないかと考えられている(非心原性肺水腫)。
  (3) 臨床所見
 自覚症状としては,呼吸困難,喘鳴,咳嗽,胸部圧迫感等のほか,心原性肺水腫などでは血性の泡沫痰を喀出することもある。呼吸困難は,夜間に突発するいわゆる心臓性喘息の型をとることがある。また,他覚所見としては,努力性呼吸,頻呼吸,頻脈が見られ,起座位をとり,頸静脈は怒張し,皮膚は蒼白で冷たくチアノーゼを伴う。胸部聴診では,軽症であれば肺底部に捻髪音が聴かれるだけであるが,重症になると全肺野で湿性ラ音や喘鳴等も聴かれることが多い。
  (4) ARDSの治療
   ア ARDSの患者は,様々な治療によっても50%以上が死亡するとの報告がある。死亡の原因は,呼吸不全の進行自体より,むしろ多臓器不全,敗血症,集中的治療の合併症,集中的治療の合併症によるものが多いとされる。
 ARDSの治療の目標は,原因疾患を治療し,支持療法(人工呼吸,輸液,栄養等)を行い,肺炎,肺の圧損傷,凝固異常等の合併症を防止することである。
   イ 支持療法
    (ア) 人工呼吸
 マスクで高濃度の酸素の投与を行っても,動脈血酸素分圧(Pao2)が60〜70Torrを維持できない場合,気管内挿管し,人工呼吸を開始し,通常,呼吸終末陽圧(PEEP)を加える。
    (イ) 輸液
 肺の毛細血管圧が少しでも増加すると,ARDSの患者では肺水腫が増強し,致命的になることがあるので,輸液は重要臓器への血流を維持するのに必要な量に留める。
 利尿薬の投与によって酸素化が改善される場合も多い。
 心拍出量の維持は,組織への酸素の運搬に必要である。ただし,薬物によって心拍出量を積極的に正常にする必要はない。
    (ウ) 栄養
 低栄養を避けるために,栄養補給を行う。経口摂取ができない場合,経管栄養,中心静脈栄養の2つの方法がある。
 4 薬剤(甲B13)
  (1) エピネフリン(製品名:ボスミン)
 アドレナリンであるボスミンは,副腎髄質ホルモン,強心作用,血管の末梢血管抵抗を増加させることによる血圧上昇,気管支筋弛緩作用がある。
 重大な副作用として,肺水腫,呼吸困難及び心停止がある。
  (2) 塩酸エフェドリン(製品名:ヱフェドリン「ナガヰ」)
 ヱフェドリン「ナガヰ」(以下「エフェドリン」という。)は,気管支拡張作用,鼻粘膜血管収縮作用,血圧上昇作用がある。
  (3) コハク酸ヒドロコルチゾンナトリウム(製品名:ソル・コーテフ)
 ソル・コーテフは,副腎皮質ステロイドであり,250mg,500mg,1000mgのものは急性循環不全に,100mg,300mgのものは急性副腎機能不全,エリテマトーデス,中毒疹,びまん性間質性肺炎等に効果がある。
  (4) 炭酸水素ナトリウム(製品名:メイロン)
 メイロンは,補正用製剤であり,アシドーシス,薬物中毒の際の排泄促進等に効果がある。
  (5) 塩酸ドパミン(製品名:イノバン)
 イノバンは,急性循環不全の改善,心収縮力増強作用,腎血流量増加作用,心拍出量の増加による血圧上昇作用がある。
  (6) 硫酸アトロピン(製品名:硫酸アトロピン)
 硫酸アトロピンは,ベラドンナルアルカロイドであり,抗コリン作用を有し,迷走神経性除脈,迷走神経性房室伝導障害,その他の除脈及び房室伝導障害等に効果がある。
  (7) 塩酸リドカイン(製品名:キシロカイン)
 塩酸リドカインは,クラスTb群であり,期外収縮,発作性頻拍,急性心筋梗塞時及び手術に伴う心室性不整脈の予防に効果がある。 
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