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未破裂脳動脈瘤の手術適応

以下の判例から
平成18年 3月 7日 和歌山地裁 判決 <平16(ワ)203号>
請求棄却、控訴
要旨
脳動脈瘤のクリッピング手術を受けた患者に左半身麻痺等の重篤な後遺障害が残った場合,病院側の診療契約上の債務不履行責任が認められないとされた事例
出典 判タ 1244号281頁、ウエストロー・ジャパン


 2 手術適応について
  (1) 一般的な手術適応判断基準について
 証拠(甲B1,18,乙B2,3)によれば,以下の事実が認められる。
 ア 年齢について
 未破裂脳動脈瘤の手術適応が認められる年齢に関しては,60歳以上では個々の症例によって検討し,65歳以上ではunreasonable(不合理)であるとする見解も存在するが(甲B1・771頁),平成9年5月に日本脳ドック学会の委員会が策定したガイドラインでは,未破裂脳動脈瘤の手術適応について,個々の症例により判断されるものとしながらも,一般的に脳動脈瘤が硬膜内にあり,大きさが5ミリメートル前後よりも大きく,年齢がほぼ70歳以下の場合は,その他の条件が治療を妨げない限り手術的治療が勧められるものとされ,また,70歳以上の場合にも,脳動脈瘤の大きさ,形,手術にリスク,患者の平均余命などを考慮して個別に判断するとされている(乙B2・57頁)。
 平成9年に日本脳神経外科学会が388施設に対して行ったアンケート調査においても,無症候性脳動脈瘤への手術適応として,65歳までとするものが6パーセント,70歳までとするものが35パーセント,インフォームドコンセントとADLによるとするものが54パーセントであった(甲B18・1883頁)。
 イ 未破裂脳動脈瘤の大きさについて
 平成9年5月に月本脳ドック学会の委員会が策定したガイドラインでは,未破裂脳動脈瘤の手術適応について,5ミリメートル前後より大きいものについて手術適応が認められるとされていた(乙B2・57頁)。なお,平成15年には,同学会から,上記基準に加えて,3ないし4ミリメートルの病変の場合にも,脳動脈瘤の大きさや形,部位,手術のリスク,患者の平均余命などを考慮して個別的に判断すると基準を付け加えている(乙B2・57頁)。
 平成9年に日本脳神経外科学会が388施設に対して行ったアンケート調査においても,無症候性脳動脈瘤への手術適応として,動脈瘤が3ミリメートルより大きいものとするものが12 パーセント,4ミリメートルより大きいものとするものが14パーセント,5ミリメートルより大きいものとするものが20パーセント,インフォームドコンセントによるとするものが51パーセントであった(甲B18・1883頁)。
 これらの事実によれば,平成9年当時には,手術適応を判断する際には,個別的な事情や十分なインフォームドコンセントを考慮することが前提ではあるが,一応の基準としては,患者の年齢は70歳以下とするのが一般的であり,また,動脈瘤の大きさについては,5ミリメートル前後よりも大きい場合には手術適応が認めるのが一般的であるが,4ミリメートルより大きければ手術適応を認める見解も相当の支持があり,3ミリメートルより大きければ手術適応を認める見解も一応有力であったことが認められる。そして,このような手術適応についての見解は,本件手術時(平成8年)においても特段の相違があったものとは認められない。
 本件においては,原告は本件手術当時67歳であり,本件動脈瘤は比較的破裂のリスクの低い整形のものであったものの,直径が3ミリメートルよりやや大きいものであったことが認められるのであって,上記の基準に照らせば,本件手術の手術適応は,原告の年齢や本件動脈瘤の大きさを根拠に一概に否定されるものではないと考えられる。
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