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ドップラー血流計によるモニタリング

以下の判例から
前掲
平成18年 3月 7日 和歌山地裁 判決 <平16(ワ)203号>


 3 ドップラー血流計によるモニタリングを行わなかったことについて
  (1) ドップラー血流計の概要
 ドップラー血流計とは,プローブを血管に当ててドップラー唸音をプローブで導出して周波数解析を行うことで,これには,血行動態を把握する医療測定機器(超音波ドップラー血流計。甲B27)と,レーザーにより血管内の血流の速度を測定することで血流量を測定する医療機器(レーザードップラー血流計)とがある。

  (2) モニタリング手法としての位置付け
 ア 「脳卒中の外科」(平成6年9月発行の学会雑誌・甲B26)では,手術中のモニタリングの特集の中で,ドップラー血流計を用いて,プローブをM1末梢部,M2,A2部位に装着し,脳動脈瘤クリップ時における末梢側動脈の血流速を継続的にモニタリングした例を紹介している。
 この記事では,ニードル型の微小超音波プローブが開発され,超音波ドップラー法によって親血管や末梢血管の血流を確認することが可能になったこと,プローブの角度によって計測される血流速に差が生じるところ,カフ付きのプローブを用いて角度を一定に保つことにより継続的な測定が可能となったことが説明されている。
 イ 日本脳神経外科学会(平成6年10月・甲B28)では,破裂脳動脈の予後の予測を行うための試みとして,二酸化炭素濃度に対する反応性を評価するに当たって,マイクロドップラー装置を用い,プローブを脳皮質動脈に装着して,血流速度及び血管抵抗値を測定・算出した例が報告されている。
 ウ 「脳神経外科手術術中モニタリング」(中国労災病院脳神経外科医師が執筆した平成7年発行の成書・甲B27)においては,脳神経外科の分野における術中モニタリングの一つとして,超音波ドップラー血流計によるモニタリングが紹介されており,動脈瘤内及び親動脈の血行動態のモニタリングの利用例として,直径 1ないし2ミリメートルのプローブを使用して,動脈瘤内で生じる乱流状態の有無の検知ができることが示されている。
 エ 「脳神経外科臨床マニュアル」(平成13年初版の成書・甲B14)では,親血管の狭窄,閉塞の有無を確認する方法としてドップラー血流計が紹介されている。
 オ 「出血性脳血管障害」(平成16年初版の成書。甲B6)では,脳血流不全に伴う脳機能障害の発生を予防するための電気生理学的モニタリングの一つとして,ドップラー血流計が紹介されているが,正確に目的の血管からの音を評価しているのかどうか疑問であり,また血流音から血流が十分量であるかどうかは判断し得ないという限界があることも示されている。

  (3) 小型ドップラー血流計の備付状況
 被告病院では,平成8年当時,小型ドップラー血流計は購入していなかった(乙B21)。
 富士脳障害研究所附属病院では,平成4年にドップラー装置を導入して,脳外科手術に利用していた(甲B40)が,滋賀医科大学脳神経外科では,平成11年に購入したものであり,平成8年ころには借用で1回ほど使用したかも知れない程度であったこと(乙B28),関西医科大学脳神経外科では平成17年3月に購入したものであり,平成8年ころには利用されていなかったこと(乙B28)が認められる。
  (4) 血流速モニタリング手法としての普及の程度
 上記(2)記載の文献を総合すれば,平成6年9月ないし10月ころには,本件手術部位の血流速を継続的に測定することが可能なドップラー血流計が既に存在しており,現実に実験的あるいは先駆的試みとして利用されていたことが認められるものの,動脈瘤内の乱流の検知ではなく血流速のモニタリングのためにドップラー血流計を使うことは,平成7,8年ころには未だ一般に普及していた手法ではなかったことが認められる(なお,近年は,血流の程度について,ドップラー血流計を使用し,血流の状態を視覚化して評価することがしばしば行われるようになり,平成11年から12年にかけて,大学病院などでは多く使用されるようになってきたことが認められる〈乙B22〉。)。
 そして,上記(3)のとおり,医科大学の附属病院でも平成8年当時に小型ドップラー血流計を備え付けていなかったことをも併せて考慮すれば,平成8年の本件手術当時に,脳動脈瘤手術に際して小型ドップラー血流計を使って血流量をモニタリングすることは必ずしも一般的ではなかったものと考えられる。

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