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SEPモニタリング

以下の判例から
前掲
平成18年 3月 7日 和歌山地裁 判決 <平16(ワ)203号>


 4 SEPモニタリングを行わなかったことについて
  (1) SEPモニタリングの概要(甲B8)
 SEPモニタリングとは,脳の感覚野に電極を設置して,末梢の感覚神経を刺激することにより生じる電位の変動を計測することにより,末梢から感覚野までの感覚経路の機能の変動を監視し,感覚経路における虚血性障害などの病変の発現を検知するというものである。
 中大脳動脈の動脈瘤の手術にSEPモニタリングを用いる場合には,上肢主根部正中神経上に刺激電極を置き,N20と呼ばれる電位変動を計測するのが一般的である。
 N20の振幅低下や消失は,皮質の障害を反映しているといわれている。

  (2) SEPモニタリングの使用例の報告
 ア 「脳神経外科臨床マニュアル」(平成7年初版の成書・甲B29)には,SEPモニタリングがクリッピング術など脳虚血が発生しうる手術の脳機能モニタリングに有用である旨の記載がある。
 イ 「脳卒中治療学」(平成8年の成書・甲B8)には,脳動脈瘤手術において親動脈である内頸動脈や中大脳動脈を一時的に閉塞する際,還流領域の脳虚血を発見する手段として,SEPモニタリングが紹介されている。
 ウ 「医学検査」(平成11年発行の日本臨床衛生検査技師会報・甲B3)では,平成4年6月から平成10年3月の間に脳動脈瘤手術時にSEPモニタリングを行った135例のうちSEPの振幅が変化した61例を対象として,脳動脈瘤手術時に生じるSEP変化についての報告が行われている。この報告では,一時的血行遮断や,ネッククリッピングによる親動脈の狭窄,穿通枝の狭窄及び閉塞,脳べらによる過度の脳圧排,術中の脳動脈瘤破裂などにより,SEP変化が認められたことが示されている。
 エ 「出血性脳血管障害」(平成16年初版の成書。甲B6)では,脳血流不全に伴う脳機能障害の発生を予防するための電気生理学的モニタリングの一つとして,SEPモニタリングが挙げられ,中大動脈皮質枝の血流不全を捉えたと思われるケースが紹介されているが,SEPモニタリングは体性感覚路の機能を監視するものであって,この経路に含まれない病巣が生じてもSEPには異常をきたさないという限界があることが示されている。
 オ 「脳神経外科手術アトラス(上巻)」(平成16年初版の成書・乙B10)では,SEPモニタリングの原理から,SEPを手術モニターとして利用できるのは脳幹及び上位顎髄近傍病変に対する手術であろうとの評価が示されている。

  (3) 小括
 上記(2)によれば,SEPモニタリングは中大脳動脈の虚血による脳障害をモニタリングする方法であるが,主として中大脳動脈の一時的遮断の影響をモニタリングすることを念頭に置いたものであること,その仕組みから,体性感覚路に含まれない病巣は検知することができないといった限界があり,利用可能なケースが限られていることが認められる。
 そして,このように有益性が限定されていることから,札幌医科大学附属病院では,平成8年当時,通常の未破裂脳動脈瘤のクリッピング術ではSEPモニタリングを使っていなかったこと(乙B19)や,装着による侵襲などのデメリットがあるために否定的な意見も存すること(乙B22)などに照らせば,本件手術当時,被告病院と同程度の水準の病院において,通常の未破裂脳動脈瘤のクリッピング術を行うに際して,血管の狭窄や閉塞を検知するための手段としてSEPモニタリングを用いることが一般的であったとは認めることができない。
 したがって,本件手術において,SEPモニタリングを使用する注意義務があったとまではいえず,この点について被告病院に過失があったということはできない。
 なお,本件手術では,手術直後には感覚低下が軽度であったことがうかがわれ,仮にSEPモニタリングを行っていたとしても,本件手術中に何らかの異常を検知できた可能性は低いと思われる。
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