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ポータブルDSAによる術中血管撮影

以下の判例から
前掲
平成18年 3月 7日 和歌山地裁 判決 <平16(ワ)203号>


 5 ポータブルDSAによる術中血管撮影を行わなかったことについて
  (1) ポータブルDSAによる術中血管撮影の概要
 ポータブルDSAによる術中血管撮影とは,大腿動脈からカテーテルを導入するなどして造影剤を注入した上で,ポータブルDSA装置により血流状況を把握するというものである(甲B10)。

  (2) ポータブルDSAの利用状況について
 証拠(甲B10,14,33,35,37,38)によれば,以下の事実が認められる。
 ア 「脳卒中の外科」(平成3年発行の学会雑誌。甲B10)では,脳動脈瘤クリッピングに伴う親動脈や分枝の閉塞による合併症を予防するために,簡便型の術中ポータブルDSAを使用して血管の血流を確認するという手法が説明されており,顕微鏡下ではA2が閉塞していないように見えたにもかかわらず,キンクによってA2が造影されなかった例が紹介され,血管の閉塞に関しては主幹動脈の枝(A2,M2など)は十分に描出でき,閉塞の有無を見ることができるものと説明されており,脳腫脹などで狭い視野しか得られない場合の手術に威力を発揮すると評価されている。
 イ 「脳卒中の外科」(平成5年発行の学会雑誌。甲B35)では,ポータブルDSA装置を導入し,平成3年10月から平成4年4月までの間に術中DSAを併用した事例が13例あり,脳動脈瘤症例としては内頸動脈眼動脈分岐部動脈瘤と脳底動脈末端部動脈瘤があることが紹介されるとともに,カテーテルによる造影剤注入という侵襲的処置による合併症の可能性が残され,また検査により手術時間が延長することなどから,適応を慎重に検討すべきことが示されている。
 ウ 「岩手県立病院医学会雑誌」(平成7年6月発行の雑誌・甲B37)では,岩手県立中央病院にポータブルDSA装置が導入され,これを用いて右椎骨動脈等の直達手術不能な動脈瘤のクリッピング手術や後頭動脈等の塞栓術が実施された例が紹介されている。
 エ 「日本農村医学会雑誌」(平成7年9月発行の雑誌・甲B38)では,土浦協同病院において,術前に脳血管撮影を行う時間的余裕がない症例について,緊急手術にポータブルDSA装置を用いた例が報告されている。
 オ 「日本災害医学会会誌」(平成8年10月発行の雑誌・甲B33)では,島根県立医科大学脳神経外科,中国労災病院脳神経外科の医師の執筆による,ポータブルDSA装置の術中使用例の報告が掲載されており,細いperforating arteriesは分解能の問題から確認することがほとんど不可能であった旨の留保はつけられているものの,動脈瘤のクリッピングの完全性を確認すると同時に親動脈の狭窄や閉塞をチェックする上で術中DSAが極めて有用であった旨報告されている。
 カ 「脳神経外科臨床マニュアル」(平成13年初版の成書。甲B14)では,親血管の狭窄,閉塞の有無をドップラー血流計などで確認するという手法の説明と並んで,血栓化動脈瘤では術中DSAが有用である旨述べられている。
 これらの事実によれば,術中DSAの有用性は広く認められており,平成3年ころには脳神経外科の学会で利用報告がされるなど,実験的・先駆的な利用が行われ,平成7年から平成8年ころには,脳神経外科学会外でも利用が広がっていたことが認められ,本件手術当時,術中DSAの利用は,実験的・先駆的な試みという段階を過ぎて実用的な利用の段階に入っていたものと考えることができるが,術中DSAが動脈瘤手術一般に利用されるべきものとの位置づけまで与えられていたとまでは認めるには至らない。
 本件手術は,手術前にDSA撮影が行われ,血管の走行状況や動脈瘤の部位,形状等が予め確認されていたこと(乙A2・92頁),動脈瘤が中大脳動脈分岐部という直達手術が容易で,かつ術野を広く確保することができる部位にあり,手術中に周囲の血管の走行状況も直接視認することも可能であったことが認められるのであって(乙A2),造影剤注入のためのカテーテルによる身体的侵襲のリスクをも考慮すれば,術中DSAを利用すべき注意義務があったとまでは認められない。
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