ホーム > 医療 > 医学的知見 >  

食道癌(食道がん)

以下の判例から
平成18年 2月23日 東京地裁 判決 <平13(ワ)14689号>
一部認容、確定
要旨
食道癌根治手術後、気管切開手術を実施する際、患者の総頸動脈の位置が通常位置から移動している可能性も考慮して、総頸動脈を損傷しないように慎重にメス操作を実施すべき注意義務を負っていたにもかかわらず、これを怠って本件創傷による失血により死亡させたとして、担当医師の過失が認められた事例
出典 判タ 1242号245頁、ウエストロー・ジャパン
評釈 安東宏三・センターニュース 217号7頁


 別紙 医学的知見

 1 食道癌(甲B1ないし13、乙B1、2、乙C1の1・2、2)
  (1) 食道の構造
 食道は、のど(咽頭)と胃の間をつなぐ長さ25cmくらい、太さ2〜3cm、厚さ4mmの管状の臓器で、その大部分は胸の中、一部は首(約5cm、咽頭の真下)、一部は腹部(約2cm、横隔膜の真下)にある。
 食道入口部から胸骨上縁までを頸部食道、胸骨上縁から気管分岐部下縁までを胸部上部食道、気管分岐部下縁から食道・胃接合部までを2等分した上半分を胸部中部食道、気管分岐部下縁から食道・胃接合部までを2等分した下半分の中の胸腔内食道を胸部下部食道、気管分岐部下縁から食道・胃接合部までを2等分した下半分の中の腹腔内食道を腹部食道という。
 食道の壁は外に向かって、粘膜、粘膜下層、固有筋層、外膜の4つの層に分かれている。
  (2) 食道癌の発生と進行
 食道に癌腫が認められるものを食道癌という。
 食道癌は、食道の真ん中か下3分の1に位置することが最も多く、食道の内面を覆っている粘膜の表面にある上皮から発生する。食道の上皮は扁平上皮でできているので、食道癌の90%以上が扁平上皮癌とされる。
 癌は、大きくなると、食道の壁を作る筋肉に入り込み、食道の壁を貫いて食道の外まで拡がっていく。食道の周囲には気管、気管支、肺、大動脈、心臓等の重要な臓器が近接しているので、癌が進行してさらに大きくなるとこれらの周囲臓器へ拡がる。
 また、食道の壁の中と周囲にはリンパ管や血管が豊富であるため、癌が、リンパ液や血液に入り込んで食道を離れ、食道周囲のリンパ節、腹部及び頸部のリンパ節に転移したり、肝臓、肺、骨等に転移することがある。
  (3) 進行度
   ア 日本食道疾患研究会が定めた食道癌取扱規約(乙B第2号証)によれば、食道癌の進行度は次のように分類できる(以下、この分類を「日本TNM分類」という。)。
 (分類)
 ┌───┬──┬──┬──┬──┬──┬──┐
 │   │N0│N1│N2│N3│N4│M1│
 ├───┼──┼──┼──┼──┼──┼──┤
 │Tis│  │ −│ −│ −│ −│ −│
 ├───┤0 ├──┼──┼──┼──┼──┤
 │T1a│  │I │  │  │  │  │
 ├───┼──┼──┘  │  │  │  │
 │T1b│I │     │  │  │  │
 ├───┼──┘II ┌──┘  │  │  │
 │T2 │     │   III │IVa│IVb│
 ├───┤  ┌──┘     │  │  │
 │T3 │  │        │  │  │
 ├───┼──┼────────┘  │  │
 │T4 │III │           │  │
 └───┴──┴───────────┴──┘
 〈1〉 壁深達度
 TX 癌腫の壁進達度が判定不能
 T0 原発巣としての癌腫を認めない
 Tis 癌腫が粘膜上皮に止まる病変
 T1a 癌腫が粘膜固有層内に止まる病変及び粘膜筋板を超えない病変
 T1b 癌腫が粘膜下層に止まる病変
 T2 癌腫が固有筋層に止まる病変
 T3 癌腫が食道外膜に浸潤している病変
 T4 癌腫が食道周囲臓器に浸潤している病変
 〈2〉 リンパ節転移の範囲
 NX リンパ節転移の範囲が不明
 N0 リンパ節転移を認めない
 N1 第1群のリンパ節に転移を認める
 N2 第2群のリンパ節に転移を認める
 N3 第3群のリンパ節に転移を認める
 N4 第4群のリンパ節に転移を認める
 ※ リンパ節群の分類については乙B第2号証参照。
 〈3〉 他の臓器への転移
 MX 臓器転移を判定できない
 M0 臓器転移を認めない
 M1 臓器転移を認める
   イ 米国癌合同委員会(AJCC)によれば、食道癌の進行度は次のように分類される(以下、この分類を「米国TNM分類」という。)。
 (分類)
  Stage0  Tis N0  M0
  StageI  T1  N0  M0
  StageIIA T2  N0 M0
        T3  N0  M0
  StageIIB T1  N1  M0
       T2  N1  M0
  StageIII  T3  N1  M0
        T4  AnyN M0
  StageIV  AnyT  AnyN M1
  StageIVA AnyT  AnyN M1a
  StageIVB AnyT  AnyN M1b
 〈1〉 原発腫瘍
 TX  原発腫瘍の評価が不可能
 T0  原発腫瘍を認めない
 Tis 上皮内癌
 T1  腫瘍が粘膜固有層又は粘膜下層に浸潤
 T2  腫瘍が固有筋層に浸潤している
 T3  腫瘍が食道外膜に浸潤
 T4  腫瘍が隣接臓器に浸潤
 〈2〉 リンパ節
 NX  所属リンパ節の評価が不可能
 N0  所属リンパ節に転移を認めない
 N1  所属リンパ節転移あり
 〈3〉 遠隔転移
 MX  遠隔転移の評価が不可能
 M0  遠隔転移を認めない
 M1  遠隔転移あり
 −胸部下部食道の腫瘍:
  M1a 腹腔リンパ節に転移
  M1b その他の遠隔転移
 −胸部中部食道の腫瘍
  M1a 該当なし
  M1b 所属リンパ節以外のリンパ節に転移及び
又はその他の遠隔転移
 −胸部上部食道の腫瘍
  M1a 頸部リンパ節に転移
  M1b その他の遠隔転移
  (4) 治療法
   ア 食道癌に対する治療方法は、外科手術、放射線療法、化学療法、内視鏡的粘膜切除術(EMR)がある。
   イ 食道癌に対する治療方法は、患者の症状に応じて決定され、明確な標準的治療方法の選択基準があるわけではないが、一般的には、米国TNM分類に従うと、StageIは内視鏡的粘膜切除術(EMR)又は外科手術、StageII、III(T4は除く。)は外科手術、StageIII(T4)、IVAは放射線化学療法、StageIVBは化学療法が適応とされることが多い。
 もっとも、近年、従来では外科手術の対象とされていた症例に対し、放射線化学療法が実施され、その有効性に関する報告がされるようになってきており、治療方法の変化が見られる。
  (5) 生存率及び予後不良因子
 日本において治療を受けた食道癌患者の生存率については、別紙生存率文献一覧表のとおりの報告がある。
タイトル
お名前
email
ご感想
ご確認 上記内容で送信する(要チェック


 


   ホーム > 医療 > 医学的知見 > 食道癌(食道がん)