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気管支周囲の血管の破綻、気管切開術など

以下の判例から
前掲
平成18年 2月23日 東京地裁 判決 <平13(ワ)14689号>


 2 総頸動脈の位置の異常(甲A7の1・2、甲B14、証人C、同F)
   ア 頸部のリンパ節や結合組織等を広汎に郭清した場合、総頸動脈の位置が通常位置から移動することがある。特に、頸部食道を切り離して胃管を挙上した場合、総頸動脈が気管側に移動することがある。
   イ なお、気管前部に腕頭動脈の強い彎曲蛇行と総頸動脈の著しい屈曲が認められたために通常とは異なる気管切開孔をデザインして気管切開術を実施した旨の腕頭動脈蛇行症の症例報告(甲B第14号証)があり、同報告には、「頸部大血管蛇行症はさほど稀ではなく、気管切開術施行時には術前の視診、触診を含めて血管の走行異常も念頭に置き、必要であればCT、MRI、MRA等の諸検査を行った上で安全に執り行うべきであると考えられた」との記載がある。

 3 血管の破綻による出血(甲A7の2、乙A6、証人C、同D)
  (1) 潰瘍・膿瘍による気管支周囲の血管の破綻
 食道癌根治手術の際に気管周囲のリンパ節郭清を行うと、気管や気管支の栄養血管に阻血や血行不良が起こり、気管や気管支壁に潰瘍が生じることがある。そして、その後、気管や気管支の周囲に膿瘍が形成され、周囲の血管(大動脈弓、腕頭動脈、肺動脈及び肺静脈等)が破綻して大出血を起こすことがある。
  (2) 腕頭動脈の破綻
 気管内チューブが長期間にわたって気管に挿入されている場合や喉頭摘出後に永久気管孔が作られている場合、気管の右側壁と腕頭動脈が接するようになる。そして、食道癌根治手術において、胸骨縦切開を行って上縦隔の気管や腕頭動脈周囲のリンパ節郭清を受けると、これらの部位に脂肪や結合組織が全く無くなった状態になる。そのため、心臓が機械的に1回拍動する度に、気管右側壁と腕頭動脈が擦れ合い、これが長期化すると、腕頭動脈が物理的に破綻することがある。このような場合にも気管に潰瘍が生じることがあり、出血した時に血液が気管内に流入することがある。
 また、胸骨後側面に炎症があると腕頭動脈の破綻があり得る。

 4 気管切開術(甲B15、16)
 気管切開術は、頸部で気管を外科的に開口することである。
 気管切開は、呼吸死腔を減じ、上気道での呼吸の抵抗を減ずる効果がある。気道分泌物の除去も容易になり、気管内挿管と異なり食物の経口摂取もでき、人工呼吸も容易になるので、長期にわたり呼吸管理が必要な症例で有用であるが、局所や気道の感染、出血、皮下気腫、気道の乾燥、抜管後の気道狭窄、その他さまざまな合併症があり、慎重を要する。
 通常の気管切開の術式は、成人では上位気管切開が原則で、甲状軟骨下縁と輪状軟骨を確認して、皮膚横切開を加える。縦切開を好む者もいる。鈍的剥離を進め、甲状腺が邪魔なときは峡部で離断結紮する。気管切開は第2、3気管軟骨部で行う。切開の入れ方も、縦切開、十字切開、逆U字切開などがある。
 気管内チューブ(気管に挿入して気道確保に使用する管。以下、気管切開術に使用するL字型の気管内チューブを「気管切開用チューブ」という。)は、低圧カフ付きのプラスチック・カニューレが一般的である。

 5 気管(甲B17)
 気管は、第4、第5胸椎の高さで左右の主気管支に分岐して肺に入る。気管支は、以後不規則な2分岐を繰り返しながら次第に細くなり、ガス交換の現場である肺胞に至る。
 気道は、気道系(導管部)として、気管、主気管支、葉気管支、気管支、細気管支、終末細気管支の順に末梢へと続き、肺胞実質系(ガス交換部)である呼吸細気管支、肺胞道、肺胞嚢へと至る。
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