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急性虫垂炎

以下の判例から
平成18年 1月23日 東京地裁 判決 <平14(ワ)11994号>
請求棄却
要旨
一一歳女児の急性虫垂炎の虫垂切除術を行わずに保存的治療に当たった被告病院の医師には過失はなかったとして、適正な時期に虫垂切除術を行わなかったために転院の後に虫垂穿孔と腹膜炎の併発による開腹手術をせざるを得なくなったことによる損害賠償を請求した患者とその両親である原告らの請求をいずれも棄却した事例
出典 ウエストロー・ジャパン

 1 医学的知見
 証拠(甲B1、5ないし10、12、13、乙B1ないし8、10)によれば、急性虫垂炎及びその合併症である腹膜炎について、次の医学的知見が認められる。

  (1) 急性虫垂炎
   ア 意義
 急性虫垂炎は虫垂に急性炎症が発症したものをいう。虫垂内腔が糞石、粘膜下リンパろ胞の増生、寄生虫、異物、腫瘍などにより閉塞し、これに血液・リンパ還流障害、ウィルス・腸内細菌感染が加わって発症すると考えられている(乙B1ないし3、5)。
 虫垂壁は内側から粘膜層、粘膜下層、筋層、漿膜の4層からなり(甲B8)、急性虫垂炎は、虫垂壁の炎症の程度に応じて次の3つに分類される(乙B2、5、6)。
   〈1〉 カタル性虫垂炎(炎症が粘膜に限局しているもの)
   〈2〉 蜂窩織炎性虫垂炎(炎症が筋層から全層に波及したもの)
   〈3〉 壊疽性虫垂炎(炎症が進行し、虫垂壁が壊死して膿瘍や腹膜炎を併発したもの)

   イ 鑑別
   (ア) 各種所見
 腹痛、嘔吐、発熱が3主徴であり、腹痛は時間の経過とともに右下腹部に限局した持続痛となる。嘔吐は初期嘔吐として出現し、その後腹膜に炎症が波及すると嘔気、嘔吐が出現する。食欲不振が認められる。発熱は炎症が進むにつれ高熱になることがあるが、必ずしも病型と一致するとは限らず、特に初期より38度台の発熱を認めるときは他疾患を疑うべきである(甲B12、乙B6)。
 血液所見では白血球増多と核の左方移動が認められるが、重症虫垂炎でも必ずしも白血球増多を示さない症例もあり、小児では病変の進行度と必ずしも一致しないことも多い(乙B2、8)。CRPは基準値(0.3以下)より高く、病期の進行とともに上昇することが多い(乙B5ないし7)。
 腸管運動は、ほとんどの場合減弱するか消失する(甲B13)。
 炎症が軽度の場合には腹部圧痛のみであるが、炎症が進行し腹膜に波及するとブルンベルグ徴候や筋性防御などの腹膜刺激症状が発生する(乙B1、2)。
 腹部超音波検査で腫大した虫垂(径5mm大以上)が描出され、粘膜下層の不鮮明化、断絶、消失がみられる場合には蜂窩織炎性、壊疽性虫垂炎が疑われ、膿瘍がみられる場合には虫垂穿孔が強く疑われる(乙B5)。
   (イ) 確定診断
 理学的所見として、腹部の痛みが右下腹部に限局していくこと及び虫垂に一致する腹壁上の点(マクバーネー点)に圧痛があることにより他の疾患(腸炎など)と鑑別され、これと腹部超音波検査所見により確定診断をする(乙B1、5、6)。

   ウ 治療
   (ア) 保存的治療と虫垂切除術
 急性虫垂炎の治療としては、入院の上、禁食、輸液を行うとともに、炎症に対し第3世代セフェム系など広域スペクトラムを有する抗生物質を投与するいわゆる保存的治療と、開腹して炎症を起こしている虫垂を切除する虫垂切除術の2種類がある(乙B1、2)。
   (イ) 手術適応
 カタル性虫垂炎については、虫垂のカタル的変化は可逆性であることや、癒着性イレウス(腸閉塞)の原因の第1位は虫垂切除術に伴うものであること、開腹手術後遺症としてのいわゆる「虫垂切除後愁訴」はカタル性虫垂炎のような軽症例に多いこと、虫垂切除が盲腸ガンの予後及び発ガン性にも関連性がある可能性があるとの報告もあり、不必要な開腹術を避けるべきとされていることなどから、一般に保存的治療の適応とされている(乙B6ないし8)。
 一方、蜂窩織炎性虫垂炎及び壊疽性虫垂炎については、原則として虫垂切除術の適応とされているが、実際には、超音波像からは蜂窩織炎性以上と考えられる症例においても保存的治療で軽快するものもある(甲B6)。
 白血球値は必ずしも重症度を示すものではないが、1万5000以上では手術適応となることが多い(乙B2)。
 明らかな腹膜刺激症状を認める場合は原則として手術適応とされ(乙B2)、特に、腹壁の筋性防御の有無が手術適応の指標にされることが多い(乙B8)。
(続く)
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