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反射性交感神経性萎縮症(RSD)

以下の判例から
平成20年 5月 9日 東京地裁 判決 <平17(ワ)3号>
一部認容、控訴
事案の概要
原告が、被告が開設・運営する甲病院(以下「被告病院」という。)において、子宮筋腫に対する腹式子宮全摘出術を受けた際、被告病院担当医師が、硬膜外麻酔を施行するため注射針を刺入したところ、第三腰椎神経根を損傷し、その結果、反射性交感神経性ジストロフィー(RSD)を発症したとして、被告に対し、被告病院担当医師に注射針刺入の際の手技上の過失及び硬膜外麻酔に関する説明義務違反があったとして、診療契約上の債務不履行又は不法行為(使用者責任)に基づき、損害賠償の請求をした事案
出典 裁判所サイト、判タ 1286号220頁、ウエストロー・ジャパン


 2 医学的知見

  (1) 反射性交感神経性萎縮症(RSD)
   ア 定義
 反射性交感神経性萎縮症(RSD)とは,外傷をはじめとして様々な原因によって引き起こされる難治性疼痛に加え,交感神経失調症状としての血管運動障害,発汗異常,さらに進行すると筋萎縮,皮膚及び爪等の退行性変化,骨粗鬆症などの局所栄養障害をきたす症候群などと定義される(甲B7)。
 世界疼痛学会(IASP)は,1994年,それまでRSDやカウザルギーとされていた疾患を,以下のとおり,CRPS(complex regional pain syndrome)typeTとtypeUに区分した(この区分は,診断基準としての意味も有する。)。RSDという名は,必ずしも交感神経が関与していなかったり,ジストロフィー症状が反射性に生ずる病態とも限らない場合があったり,病期が進んでから出現したりするため,適切ではないと考えられるようになったからである(甲B10(文献1,文献2,文献4,文献5),乙B2,4,5,Vの書面尋問事項回答書,E)。

 CRPStypeT(RSD)
 1 T型は痛みを感じるような出来事のあとにひきおこされる症候群である。
 2 自発痛又はアロディニア(もしくは痛覚過敏)がおこる。これは,単一の末梢神経支配領域にとどまらず,先行する外傷の程度と比べても不釣り合いなほど強い。
 3 痛みが存在する部位に浮腫,皮膚血流異常,発汗機能異常がある。または,損傷後に認められたことがある。
 4 痛みの強さと機能異常を説明できるような他の疾患が存在しないこと。

 CRPStypeU(Causalgia)
 1 U型は神経の損傷後に引き起こされる症候群である。
 2 自発痛又はアロディニア(もしくは痛覚過敏)がおこる。これは,必ずしも損傷を受けた神経の支配領域にとどまらない。
 3 痛みが存在する部位に浮腫,皮膚血流異常,発汗機能異常がある。または,損傷後に認められたことがある。
 4 痛みの強さと機能異常を説明できるような他の疾患が存在しないこと。

   イ 発症原因
 RSDはさまざまな原因で発生する。主なものとしては,事故による損傷(捻挫,脱臼,骨折,切断,挫滅損傷,挫傷,切創,刺傷など),外科手術その他の医原性損傷(輸液の際の正中神経損傷,筋肉注射による坐骨神経損傷など),特定の職業に基づく外傷などがある。さらに,心筋梗塞や神経疾患などによっても起こり得るとされる。麻酔科領域では,麻酔導入時に刺激性薬物が血管外へ漏れたために生じた神経損傷や,アルコールなどの神経破壊薬を用いた神経ブロック時の不完全な遮断などによってもRSDが発症する危険もあるとされている(甲B7,甲B10(文献4),乙B2)。

   ウ 症状
 RSDの疼痛は,ズキズキうずくもの,灼熱痛と様々である。一般に,安静時も痛み,ほとんどが持続性で,運動,寒熱,機械的刺激,ストレス等で増悪するため,患者は患部を防御する行動をみせる。神経支配と一致しない痛みが,損傷部位から経過につれて末梢側及び中枢側に拡大し,さらに同側の四肢,時には脊髄を挟んで反対側にまで広がることもある。知覚異常も痛みとして表現される。多くは患部を触る等,通常痛み刺激とはならない程度の非侵害刺激でも痛みを誘発するallodyniaや,知覚過敏を認める。
 局所症状としては,皮膚の温度や色調の変化(暗黒色化)等皮膚の血流異常を伴う血管運動障害が起こる。初期は血管拡張,紅潮,熱感を認めるが,病状が進行すると,血管収縮,チアノーゼ様の冷感,発汗異常(減少又は過多)もみられる。皮膚は初期,皺が少なく,浮腫や腫脹を伴うが,次第に蒼白,乾燥することもある。爪の変形や筋萎縮,X線で骨の脱灰による斑状,あるいはびまん性の骨萎縮,関節の可動域制限や拘縮等,栄養障害による器質的及び機能的な変化を認めるとされる(甲B7,甲B10(文献1,文献2,文献5),甲B25,乙B4,5)。
(続く)

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