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反射性交感神経性萎縮症(RSD)

以下の判例から
前掲
平成20年 5月 9日 東京地裁 判決 <平17(ワ)3号>


(続き)
   エ 病期
 RSD(CRPStype1)の病期に関しては,1期から3期に分けられる。
 第1期は,受傷から約3か月間の期間であり,もともとの外傷に関係して起こっている急性期として知られている。一般に,この病期にある患者は,感じる疼痛をひりひりやずきずきといった質のものと表現し,その痛みは四肢に持続する浮腫が生じると増強される。この病期には,機械的刺激,多くの場合,寒冷によって誘発された痛覚過敏があると報告されている。また,感情的な刺激も痛みを悪化させることがあるとされる。この時点では,四肢は温かいか,あるいは冷たくなっており,侵された領域に限局して爪や髪の毛の過度の成長が見られる。
 この時期が最も治療効果がよく,この時期の痛みを見逃さないことが治療のために大切であるとされる。
 第2期は,受傷後約3か月後ころからの期間であり,成長異常期ともよばれ,第1期で見られた所見の増悪がみられ慢性の域に達する。侵された四肢は通常は冷たく虚血気味で,脱毛,線の入ったもろい爪,重度の浮腫性変化などがみられる。この段階では,疼痛はより高頻度に出現し,肉体的あるいは熱性の刺激によって増悪する。レントゲンでは,びまん性骨粗鬆症がみられる。
 第3期すなわち萎縮期では,皮膚の薄化,拘縮の原因ともなる筋膜の肥厚,著名なびまん性骨性無機物喪失などの不可逆的な組織損傷が起こる。第2期,第3期になると,種々の治療に抵抗性を示す。
 上記のような病期の分類に対しては,病期の進行過程において同種の規則的な進行がみられることが前提になっている点で議論があり,患者の中には,疼痛や痛覚過敏の病歴が数年にわたるにもかかわらず,発育異常性変化が最小限しかみられないような例もあるとされる(甲B7,甲B10(文献2・文献4・文献5),甲B25,乙B2,E)。

   オ 診断
 患者の症状がRSDによるものか否かを診断するためには,上記の臨床症状が認められるか,損傷を受けた既往歴があるかを確認し,これらが認められる場合には,さらに詳しく問診し,筆,氷,メジャー等の診察用小道具を取り出して,詳細な理学所見をとる必要があるとされる。また,X線撮影,サーモグラフィー,骨シンチグラフィも診断に有用であるとされ,RSDでは,X線で,骨萎縮や骨吸収像がみられ,骨シンチグラフィでは,罹患部位を中心に広範な集積像が認められる。骨萎縮の所見は,疼痛などのために荷重や歩行が不能になるために出現する。また,サーモグラフィーでは,罹患肢と健側に温度差がみられ,皮膚温度の変化は大きく,医療効果を反映することもあるため,サーモグラフィーによる定期的検査とその記録,評価は有用であるとされる。(甲B10(文献1,文献4),乙B2,4,5)。
 RSDの診断のための基準の1つとして,以下のGibbonsらのRSDスコアがあり,この基準が我が国でよく用いられているとする文献がある(甲B10(文献2,文献4),乙B2,16)。
 T 各診断項目について,陽性=1点,疑陽性=0.5点,陰性又は未評価=0点とする。
  1 アロディニア,痛覚過敏
  2 灼熱痛
  3 浮腫
  4 皮膚の色調,体毛の変化
  5 発汗の変化
  6 罹患肢の温度変化
  7 X線上の骨の脱灰像
  8 血管運動障害と発汗機能障害の定量的測定
  9 RSDに相当する骨シンチグラフィーの所見
  10 交感神経ブロックの効果
 U 総合得点で5点以上:RSDの可能性高い
 3.5〜4.5点:RSDの可能性あり
 3点未満:RSDではない

   カ 治療
 RSDを含むCRPSに対する治療としては,理学療法(温冷交替浴,電気刺激法,レーザー療法,自動運動,他動運動,日常動作訓練等),神経ブロック療法(局所静脈内ステロイド注入法,交感神経ブロック〔上肢の場合は星状神経節ブロック,下肢の場合は腰部交感神経ブロック〕,硬膜外ブロック,その他の末梢神経ブロック等),薬物療法(消炎鎮痛剤,副腎皮質ステロイド剤,抗不安薬,抗うつ薬等),手術療法(脊髄神経根入口部破壊術,胸腔鏡下胸部交感神経節切除術等)などがある(甲B7,甲B10(文献2,文献5),乙B4ないし6)。
 RSD及びカウザルギーに対しては,早期のブロック療法が予防及び治療上極めて重要である。また,交感神経ブロックにて症状が軽快することが,RSDの診断の一つの基準とされているが,近年では,交感神経ブロックにより症状の好転する症例はそれほど多くないとの指摘もある(甲B1,7,甲B10(文献2),乙B4ないし6)。

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