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脊椎麻酔

以下の判例から
平成19年 9月26日 札幌地裁 判決 <平16(ワ)2584号 ・ 平19(ワ)1204号>
一部認容、確定
要旨
医師が前立腺肥大の高齢患者に対してレーザー手術を行う際に、脊椎に麻酔薬を注入したところ、患者の血圧が低下し、呼吸停止、心停止の状態に陥り、その半年程経過した後に、患者が転送先で急性肺炎により死亡したことから、その遺族である原告らが医療法人及び医師に対して不法行為に基づく損害賠償を請求した事案において、本件事情に照らせば、医師には麻酔薬注入後に坐位による安静を維持して麻酔高の上昇を避けるべき注意義務を怠った過失、麻酔中に麻酔高を確認すべき注意義務を怠った過失があり、各過失と患者の死亡との間には相当因果関係が認められるとして医療法人及び医師の賠償責任を認めた事例
出典 判時 2005号54頁

評釈 伊藤秀子=田端綾子・センターニュース 237号9頁


  (3) 本件に関連する医学的知見

   ア 脊椎の構造について
 脊柱は、頭部に近い方から順に、頸椎骨(七個)、胸椎骨(一二個)、腰椎骨(五個)、仙椎骨(五個)及び尾骨(三個ないし五個)からなる。脊椎は、腹側の椎体と背側の椎弓からなり、その間に脊柱管がある。脊髄は、脊柱管内に収まっており、硬膜、くも膜、軟膜及び脳脊髄液により保護されている。なお、脊椎については、頸椎、胸椎、腰椎、仙椎のそれぞれにつき、頭部に近い方から順に、第一、第二などと番号が付されている。

   イ 脊椎麻酔について
 (ア) 本件麻酔は、脊椎麻酔(脊髄麻酔、腰椎麻酔といわれることもある。)であり、患者の背部から椎間に麻酔針を穿刺し、局所麻酔薬をくも膜下腔(脊椎に囲まれた、神経が入る嚢状の脳脊髄液で満たされた空間)の脳脊髄液内に注入して、脊髄神経の前根、後根、後根神経節及び脊髄外層において神経伝達を可逆的に遮断する方法である。
 (イ) 脊椎麻酔は、目的とする麻酔高(麻酔レベル)ないし実際に生じた麻酔高により、高位脊椎麻酔(麻酔レベルが第四胸椎以上に及ぶもの)、低位脊椎麻酔(麻酔レベルが第一〇胸椎以下のもの)、サドルブロック(麻酔レベルが仙骨神経領域(第一仙椎ないし第五仙椎)にとどまるもの)などに分類される。サドルブロックではない通常の脊椎麻酔においては、側臥位で麻酔薬を注入し、直ちに仰臥位に体位を変換するものとされているのに対し、サドルブロックでは、麻酔高の不要な上昇を避けるため、通常、坐位の状態で麻酔薬を注入し、その後坐位を維持するものとされている。サドルブロックにおいて麻酔薬の注入後坐位を維持すべき時間については、的場意見書では五分ないし一〇分間とされているが、五分間とする文献もある。
 また、脊椎麻酔における穿刺部位は、目的とする麻痺高によって異なり、高位脊椎麻酔の場合には、第二腰椎と第三腰椎の椎間又は第三腰椎と第四腰椎の椎間から、低位脊椎麻酔の場合には、第三腰椎と第四腰椎の椎間又は第四腰椎と第五腰椎の椎間から、サドルブロックの場合には、第四腰椎と第五腰椎の椎間又は第五腰椎と第一仙椎の椎間ないしそれ以下の椎間から穿刺することとされている。
 (ウ) 脊椎麻酔において使用される局所麻酔薬は、脳脊髄液内に注入されることから、脳脊髄液の比重との相対値により、高比重液(脳脊髄液よりも比重の高い麻酔薬)、等比重液(脳脊髄液と同程度の比重の麻酔薬)、低比重液(脳脊髄液よりも比重の低い麻酔薬)に分類されるが、本件において麻酔薬として使用されたネオペルカミン・Sは、このうち高比重液に当たる。

   ウ 脊椎麻酔における麻酔管理について
 (ア) 全般的な注意事項について
 本件麻酔において使用された麻酔薬であるネオペルカミン・Sの添付文書(甲B一)には、「重要な基本的注意」欄に、同薬剤の重大な副作用としてショックが現れることがあり、その副作用を完全に防止する方法はないが、ショック様症状をできるだけ避けるために、その投与に当たっては、麻酔中は頻回にバイタルサイン(血圧、心拍数、呼吸数、意識レベル)及び動脈血酸素飽和度の測定を行うとともに麻酔高に注意し、患者の全身状態の観察を十分に行い、さらに手術が終了しても麻酔が完全に消失するまでバイタルサイン及び全身状態の観察を行い、異常が認められた場合は必要に応じて適切な処置を行うこととの記載がある。

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