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脊椎麻酔、麻酔高の確認等

以下の判例から
前掲
平成19年 9月26日 札幌地裁 判決 <平16(ワ)2584号 ・ 平19(ワ)1204号>


 (イ) 麻酔高の確認等について
 麻酔高は、麻酔薬の投与量、穿刺部位、麻酔薬投与時及び投与後における体位等により影響を受ける。
 脊椎麻酔における麻酔高の上昇時間及び麻酔薬注入後における麻酔高の確認について、神戸大学大学院医学系研究所・医学部のホームページ中の「麻酔マニュアル基本編」と題する部分(甲B二)では、麻酔レベルは六〇分間上昇し得るから、レベルチェックは、麻酔開始後一五分までは二分ないし三分ごと、それ以降は一〇分おきに行うべきであるとされ、また、麻酔学についての文献である「NEW麻酔科学(改訂第三版)」(甲B七)では、大まかな麻酔の固定時間(これ以上麻酔レベルの変化が起こらないとされる時間)は一五分ないし二〇分と考えてよいとの記載(一四八頁)がある一方、臨床的には一五分ないし二〇分より後でも麻酔範囲の拡がりが観察され、四〇分では固定したと考えてよく、その後は麻酔効果が消失する旨の記載もある。また、「脊椎麻酔― 正しい知識と確実な手技」と題する文献(甲B九)は、ネオペルカミン・Sに含まれる有効成分であるジブカイン溶液に脊髄片を浸したところ、ジブカインの脊髄への吸着は、はじめの五分間でその約二分の一が完了するが、以後三〇分間は吸着が続いたとの実験結果及び臨床的には局所麻酔薬の注入後約二〇分の間には麻酔域の変動する可能性が高いとの報告を紹介している。また、的場意見書(甲B一四)には、通常手術可能となる麻酔レベルが得られるのは薬液注入後一〇ないし一五分であるが、その後も麻酔レベルは上昇することが一般的であり、現在麻酔レベルが固定する時間は四五分ないし六〇分程度と考えられている旨の記載がある。また、日本麻酔科学会指導医である白崎修一医師(以下「白崎医師」という。)作成にかかる意見書(甲B一五・以下「白崎意見書」という。)には、通常、脊椎麻酔施行後一〇分前後で手術可能な麻酔高が得られるが、麻酔高はその後も上昇し、局所麻酔薬投与後三〇分までは注意深い観察が必要とされているとの記載がある。

 (ウ) 麻酔薬注入後の体位変換と麻酔高の上昇との関係について
 脊椎は彎曲しており、仰臥位では、第五胸椎付近が最も低く、第三腰椎付近が最も高いため、麻酔薬として高比重液を使用した場合、麻酔薬が第三腰椎付近から第五胸椎付近に向かって拡散することになる。また、仰臥位から砕石位(膝を屈曲位にして両足を広げて挙げる体位)への体位変換について、的場意見書では、下肢を挙上するため、骨盤や腰椎、仙椎が動くことは避けられず、薬液が注入されたくも膜腔内の脳脊髄液が震盪され、麻酔高が急上昇する可能性がある旨が指摘されている。
 なお、高比重液は比重が高く、脳脊髄液の中で局所麻酔薬溶液が低い方に多く分布するため、麻酔薬の投入後、麻酔域が広すぎる場合には、前記のとおり脊椎が生理的に彎曲していることを利用して、患者の体位及び手術台の傾斜を変更し、頭高位とすることにより、麻酔高を調節することができる。

 (エ) 血圧の確認について
 ネオペルカミン・Sの添付文書(甲B一)では、同剤を用いた脊椎麻酔時の血圧管理につき、@薬液を注入してから一分後に血圧を測定し、Aそれ以降一四分間は、二分に一回血圧を測定し(血圧が急速に下降傾向を示すなど必要がある場合には、連続的に血圧を測定する。)、B薬液注入後一五分以上経過した後は、二・五分ないし五分に一回血圧を測定する(血圧が急速に下降傾向を示すなど必要がある場合には、連続的に血圧を測定する。)ものとされている。また、前掲甲B二には、脊椎麻酔の際には、血圧は麻酔薬注入後二分ごとに測定するとの記載がある。

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