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脊椎麻酔、麻酔高の上昇

以下の判例から
前掲
平成19年 9月26日 札幌地裁 判決 <平16(ワ)2584号 ・ 平19(ワ)1204号>

   エ 脊椎麻酔において麻酔高の上昇に伴いみられる症状等について
 (ア) 前掲の「NEW麻酔科学(改訂第三版)」においては、脊椎麻酔の呼吸系への影響として、@麻酔高が頸髄レベルまで達し、横隔膜神経(第三頸椎ないし第五頸椎が支配する。)などの呼吸筋への運動神経が遮断されると、呼吸抑制を生じ、患者は咳ができない、声が出にくいなどと訴えることがあること、A第三胸椎ないし第四胸椎レベルの遮断では、安静換気量の減少は一〇%前後にとどまるが、患者は、自己の胸郭や腹部の呼吸運動を感知できなくなるため、息苦しさを訴えることがあることなどが指摘されている。また、循環系への影響として、@交感神経節前線椎の遮断により末梢の静脈血管と細動脈の血管拡張が起こり、このため静脈還流量が減少すること、麻酔レベルが高位に及ぶと、心臓交感神経も遮断され、血圧の低下が著明となり、徐脈も伴い、この場合には心拍出量の低下も著しいこと、A一般に麻酔レベルが第三胸椎以上のときは、すべての交感神経の遮断が起きていること、正常患者では、血圧が低下すると動脈圧受容体を介する反射が働いて、血圧を維持しようとして交感神経を介して血管収縮、心拍数増加などを来すはずであることなどが指摘されている。
 (イ) 宮崎医師は、宮崎意見書において、高位脊椎麻酔とは、脊椎麻酔の効果が第五胸神経以上のレベルに及んだ場合をいい、このような高さまで麻酔が及んだ場合、@交感神経遮断による末梢神経拡張などにより低血圧を生じるが、同時に心臓交感神経(第一ないし第五胸神経が支配する。)遮断により徐脈を起こし、さらには、大静脈及び右心系に存在する圧受容器(血圧低下により徐脈を引き起こす。)が、大動脈弓及び頸動脈洞に存在する圧受容器(血圧低下により頻脈を引き起こす。)よりも優位となり、徐脈を来す、A患者の呼吸筋の一部を司る肋間神経が麻痺することがあり、この場合、患者は、「息がしにくい。」、「息が苦しい。」などと訴えるのが通常であり、また、高位脊椎麻酔による効果が横隔神経のメインである第四頸神経まで及んで呼吸停止を来すことがある旨を指摘している。
 また、同意見書においては、麻酔高が第五胸神経レベルに至らない(高位脊椎麻酔に至らない)場合であっても、麻酔高が第五胸神経ないし第三腰神経(小腸、大腸などを支配する神経)のやや上部まで及べば、交感神経遮断により静脈系にプールされる血液量が増加し、急激な血圧低下を生じる可能性は常に考えられ、この場合には、大動脈弓及び頸動脈洞に存在する圧受容器(血圧低下により頻脈を引き起こす。)がふだん優位にあるので、頻脈を引き起こすことは十分考えられ、血圧低下により、延髄に存在する呼吸中枢への血流が低下し、呼吸抑制ひいては呼吸停止に至り、引き続いて意識消失が起こることは十分に考えられる旨が指摘されている。
 (ウ) また、的場意見書においては、ある程度循環系に予備力のある患者に脊椎麻酔を行った場合、呼吸循環系に以下のような経過で変化が生じることが想定できる旨指摘されている。
  @ 下肢血管拡張による軽度の血圧低下。この段階では、麻酔が終わったことによる安心感で多くの場合患者の心拍数は通常に復する。
  A さらに麻酔レベルが上昇し腸間膜の血管が拡張すると、相対的に血液循環量が不足し、出血性ショックと似た状態、すなわち頻脈と低血圧が起こる。
  B さらに麻酔レベルが上昇すると、肋間筋の麻痺、さらには横隔神経麻痺が起こり、呼吸停止に至る。肋間筋麻痺が起こり始めた時点で、患者は通常呼吸苦を自覚し、ため息呼吸などが始まるほか、前投薬による鎮静がなされていない場合には、この時点で呼吸苦を訴える。言葉は通常、「胸が苦しい」、「呼吸ができない」などという。横隔神経麻痺に至った場合には、患者は声を出すことができず、顔をしかめる、顎を上げたり下げたりする、首を横に振るなどして苦しさを訴える。また、この段階に至ると徐脈を呈する症例も多くみられるが、心拍数の反応は一様ではない。

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