ホーム > 医療 > 医学的知見 >  

アナフィラキシーショック

以下の判例から
平成17年12月15日 福岡高裁 判決 <平15(ネ)1005号>
変更、確定
要旨
内視鏡検査の前処置としてキシロカイン投与を受けた患者が、アナフィラキシーショックにより死亡した場合、担当医師に問診義務・観察義務・救命措置義務の懈怠があったとして、病院側の不法行為責任が認められた事例
内視鏡検査の前処置としてキシロカイン投与を受けた患者が、アナフィラキシーショックにより死亡した場合、判示の事情の下においては、問診義務・観察義務・救命措置義務の懈怠による病院側の不法行為責任が認められる。

裁判経過
 第一審 平成15年11月18日 福岡地裁 判決 平13(ワ)4392号

出典 判タ 1239号275頁、判時 1943号33頁


  (1) アナフィラキシーショック等に関する一般的な知見
 証拠(甲11の1,12の1,13ないし15,17,28,当審証人秋山)によれば,以下の事実が認められる。

 ア 内視鏡検査における局所麻酔薬の副作用としては,主にアナフィラキシーショックと局所麻酔薬中毒反応が挙げられている。
 アナフィラキシー反応は,生体に投与された異物(薬物を含む。)が特異抗体(IgE抗体)と反応して細胞膜表面上で抗原抗体反応を起こし,その結果,肥満細胞や好塩基球細胞からヒスタミン,セロトニンやキニン類など種々の生物学的活性を持った化学物質が放出されることで起こるものである。このアナフィラキシー反応の結果,呼吸器症状,循環器症状,消化器症状,皮膚症状などがみられるが,その中で,致命的なのは,いわゆるアナフィラキシーショックといわれる循環虚脱と上気道の浮腫による気道閉塞である。アナフィラキシーショックは,生体内の抗原抗体反応で起こる迅速型のアレルギー反応であり,投薬後平均5分ないし15分間にその大部分が発生するが,ときには投与直後から発生することもある。その症状は極めて特異的であって,体質が関係しており,死亡率は5 パーセント程度といわれている。その前駆症状では,全身症状として,口内異常感,不安感,無力虚脱感,急にだまる,冷汗及び悪寒が,循環器症状として,脈拍頻数,心悸亢進が,神経症状として,四肢末端部・口唇のしびれ感,?痒感,眩暈,耳鳴が,呼吸器症状として,喉頭部狭窄,くしゃみ,反射性せき,胸部絞扼感,喘鳴が,消化器症状として,口内異物感,嚥下困難感,異味感,腹痛,腹鳴,悪心,嘔吐,便意が,皮膚粘膜症状として,皮膚一過性紅潮発疹,口腔粘膜浮腫,結膜浮腫,結膜充血がある。進行症状では,循環器症状として,血圧低下,脈拍微弱,胸内苦悶,チアノーゼ,循環不全が,神経症状として,眼前暗黒感,意識喪失,痙攣が,呼吸器症状として,気道浮腫による呼吸困難が,消化器症状として,尿・糞便失禁,下痢が,皮膚粘膜症状として,四肢冷感,皮膚蒼白,血管浮腫,紫斑がある。そして,重症症状では,高度のチアノーゼ,循環虚脱,窒息による呼吸停止,昏睡がある。局所麻酔薬は,エステル型とアミド型に大別され,リドカインは,アミド型の局所麻酔薬である。アミド型の局所麻酔薬では抗体産生が認められないため,アミド型の局所麻酔薬ではアナフィラキシーショックを含めてアレルギー反応を起こす頻度は非常に少ないが,ごくまれにアミド型の局所麻酔薬によってもアレルギー反応を起こす場合がある。また,キシロカインビスカス,キシロカインスプレー,キシロカイン液,キシロカインゼリーなどの塩酸リドカイン製剤には,種々の添加物が含まれており,このうち,パラベン類は,エステル型局所麻酔薬に見られるようなアナフィラキシーショックの原因となりうる。
 臨床的には,薬物によるアレルギーは,アレルギー体質の保有者により高率に出現するとされている。

 イ キシロカインビスカス,キシロカインポンプスプレー及びキシロカインゼリーの各能書には,重大な副作用として,@ショック:徐脈,不整脈,血圧低下,呼吸抑制,チアノーゼ,意識障害等を生じ,まれに心停止を来すことがあり,また,まれにアナフィラキシーショックを起こしたとの報告があるので,観察を十分に行い,このような症状があらわれた場合には,適切な処置を行うこと,A意識障害,振戦,痙攣:意識障害,振戦,痙攣等の中毒症状があらわれることがあるので,観察を十分に行い,このような症状があらわれた場合には,直ちに投与を中止し,適切な処置を行うこと,Bその他の副作用として,頻度は不明であるが,中枢神経に関して,眠気,不安,興奮,霧視,眩暈,悪心,嘔吐等があり,このような症状があらわれた場合は,ショックあるいは中毒へ移行することがあるので,患者の全身状態の観察を十分に行い,必要に応じて適切な処置を行うこと,C過敏症に関して,蕁麻疹等の皮膚症状,浮腫等があることなどが記載されている。
タイトル
お名前
email
ご感想
ご確認 上記内容で送信する(要チェック


 


   ホーム > 医療 > 医学的知見 > アナフィラキシーショック