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記者会見等の責任 H18. 8.31 東京高裁判決(判旨から 1/5)

前掲
平成18年 8月31日 東京高裁 判決 <平17(ネ)1814号>
から

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 3 一審被告Y2の本件記者会見等による責任について

  (1) 前提事実及び前記1(2)認定の事実に証拠(略)を総合すれば,以下の事実が認められる。

 ア 新潟地方裁判所では,司法記者クラブ加盟の各社(新聞・テレビ局)に対し,新潟地方裁判所が受理した民事訴訟事件に関する情報提供のため,総務課に開廷期日簿を備え置いてこれを閲覧させ,上記加盟各社の記者(以下,単に「司法記者」という。)から要望のあった事件につき,原則として訴状の閲覧を認める取扱いをしていた(ただし,訴状送達が完了した事件に限り, 民事訴訟法92条1項による記録の閲覧等の制限決定がされた事件や人事訴訟事件等の当事者のプライバシー保護が求められる事件については閲覧から除外していた。)。前提事件の訴状は平成12年1月14日受け付けられ,第1回期日が同年3月24日に指定され,一審原告に前提事件の訴状が送達されたところ,一審原告は,代理人を選任することなく,同年2月27日に,請求原因事実を否認する趣旨であるが,かなり詳しく認否が記載された同月25日付け答弁書を提出した。

 イ 前提事件(事件名謝罪広告掲載等請求事件)が上記の期日に審理されることが登載された開廷期日簿を閲覧した司法記者から,前提事件の訴状の写しの閲覧を求められた新潟地方裁判所は,セクハラを対象とする事件であることから,閲覧の制限をすべきかを担当部に問い合わせ,担当部の書記官が,同年3月6日,一審被告Y2に前提事件の訴状を司法記者に閲覧させることに支障があるか意見を聞いたところ,一審被告Y2は,原告である一審被告Y1の氏名・住所は明らかにしないよう求めた。一審被告Y2は,同日,一審被告毎日新聞社新潟支局のB記者をはじめ複数の報道関係者から前提事件に関する問い合わせを受け,前提事件の訴状の写しを入手したいという要請を受けた。一審被告Y2は,新潟地方裁判所では,司法記者に対し訴状の閲覧を認め,その写しを求められた際には交付することがあり,交付を受けた司法記者はこれを独占しない趣旨で司法記者クラブの事務室に当該写しを掲示しているものと認識し,正確な報道をしてもらう必要があると考え,同日午後9時過ぎころ,一審被告Y1の住所氏名のみを削除した前提事件の訴状の写しを司法記者クラブ幹事社(テレビ新潟)宛にファクシミリ送信し,記者クラブ事務室で掲示するよう求めた。また,一審被告Y2は,一審被告Y1に電話をし,マスコミが動き出したとの情報を伝えた。

 ウ B記者は,同月6日,新潟地方裁判所の総務課で開廷期日簿を見て,前提事件が合議事件として係属していることを知り,総務課に訴状写しの閲覧を求め,そのほぼすべてを書き写し,医療現場における医師の行為の違法性が問われている事件として公共の利害に関わる事件の提訴であると認識し,報道のための取材を開始した。B記者は,まず一審被告Y2の事務所に電話をかけて当事者がどのような人物かを取材し,一審被告Y2から一審被告Y1が特定されるような病名や住所,氏名を伏せて報道するよう求められて了承し,本社の情報調査部に依頼して一審原告に関する情報を集めた。また,一審原告の主張も掲載する必要があると考え,埼玉医科大学の一審原告のもとへ電話したが不在で,自宅にも電話をしたが,やはり不在で連絡がつかず,自宅に電話した際には取材の趣旨を一審原告に伝言するよう依頼した。B記者は,記事原稿の作成にかかったが,他の仕事が入ったため,同僚のD記者に引き継いだ。一審原告が,同日午後10時ころ支局宛に電話をかけてきたことから,D記者が応対し,記事になることを一審原告に伝えて一審原告から前提事件の訴状の記載内容が事実に反する旨の説明を聞くなどの取材をしたが,一審原告からは実名報道をしないようにとの要望は特になく,D記者は,原稿を完成させて出稿し,本件記事が翌7日の朝刊に掲載された。一審原告の自宅には,同月6日,朝日新聞,読売新聞からも取材の電話がかけられ,一審原告は不在で応対することはなく,電話があったことを家人から聞かされたにとどまつた。

 エ 一審被告Y2は,同月7日,事務所に複数の報道関係者からの問い合わせの電話がかかり,その応対に追われ,日常業務に支障が生じたことをきっかけに,対応を一回にし,かつ準備した上で統一した内容で説明するため記者会見を行いたいと考え,相代理人や一審被告Y1に連絡したがいずれも連絡がつかず,独断で記者会見を行うこととし,一審被告Y1には留守番電話に記者会見を行うことを伝言した。一審被告Y2は,司法記者クラブに連絡し,同日午後4時30分から新潟県弁護士会館において前提事件の訴え提起に関する記者会見を開催した。一審被告Y2や相代理人弁護士は,一審被告Y1との事前の打ち合わせでは,前提事件の提訴につきマスコミに働きかけることはしないが,マスコミに動きがあれば協議することを話し合っていた。
 一審原告は,同日午後3時30分ころ,NHK新潟放送局の記者から電話があり,一審被告Y2が本件記者会見を行うことを聞かされていた。
 同記者会見には,司法記者クラブに加盟する新聞社,テレビ局約9社の司法記者約9名が出席し,NHK新潟放送局のカメラマンがその模様を撮影した。一審被告Y2は,前提事件の訴状の内容を説明,解説したが,事実関係については,一審被告Y1の主張であるとの前提で説明を加え,一審原告が答弁書を提出し争っていることを簡潔に付言し,ことさらに一審原告を非難するような発言はなかった。また,同記者会見では,細かい事実関係よりも,名誉毀損とプライバシー侵害の異同等一審被告Y1の主張事実に対する法的評価の説明が主要な内容であった。

 オ 一審原告は,本件記者会見等において一審原告による名誉毀損等及びセクハラの事実それ自体が摘示されたと主張するが,一審被告Y2の供述(丙16,一審被告Y2)を検討しても,同一審被告が,一審被告Y1の主張事実であるとの前提を超えて,一審原告による名誉毀損等及びセクハラの事実があったとの印象を与える発言に及んだとまで認めることは困難であり,他にこれを認めるに足りる証拠はない。

 カ 本件記者会見の映像は,当日の午後6時35分ころ,約1分35秒程度NHK新潟放送局の県内ニュース番組においてテレビ放映された。ただし,同放送においては,一審原告の実名や顔写真は放映されなかった。
 また,翌8日,新潟県の地方紙である新潟日報が一審原告の実名は記載せずに提訴された事実を報道し(甲11),産経新聞(県内版)が同じく提訴された事実を一審原告の実名で報道した(己4)。

 キ 一審被告Y1は,同月7日に,記者会見が終了した後に留守番電話で一審被告Y2が記者会見をすることを聞かされたが,一審被告Y2をこのことで非難したり苦情を言ったりすることはなかった。
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(続く)

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