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記者会見等の責任 H18. 8.31 東京高裁判決(判旨から 2/5)

前掲
平成18年 8月31日 東京高裁 判決 <平17(ネ)1814号>
から

(続き)
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  (2) 一審被告Y2がしたファクシミリ送信について

 ア 前記認定によれば,新潟地方裁判所では受理した民事訴訟事件の開廷期日簿を司法記者に明らかにし,司法記者が原則として訴状の閲覧をすることが可能であることから,一審被告Y2は,前提事件の訴状の写しを閲覧した司法記者からの取材を受け,訴状写しの交付を求められ,前提事件の訴えが提起されたことが新聞やテレビで報道されることを予測し,司法記者が事件を正確に理解し報道が適切にされることを目的として,司法記者クラブ幹事社宛に前提事件の訴状写しをファクシミリ送信し,司法記者クラブの事務室内の掲示板に掲げるよう求めたものである。

 イ 前提事件の訴状は,すでに事件記録の一部となり, 民事訴訟法の規定に従い,閲覧が可能な状態にあり,前記のような運用上の例外にあたらないとして,担当部の了解のもとに司法記者に対する閲覧が認められていたものと解することができ,前提事件の第1回期日が新潟地方裁判所が総務課に備え置いた開廷期日簿に登載されたことにより,司法記者は前提事件の訴状の閲覧が可能な状態にあったものである。そして,前提事件が,事件名が謝罪広告掲載等請求事件であり,合議事件とされたことから,司法記者の関心を呼び,前提事件の訴状写しを閲覧した司法記者において,提訴を報道する可能性があり,一審被告毎日新聞社がこの閲覧を契機に取材を開始し(翌日の朝刊に本件記事を掲載。),他の新聞社,テレビ局においても前提事件に関心を持ち,一審原告や一審被告Y2への取材を開始していたものである。

 ウ 前提事件の訴状には,前記のとおり,一審被告Y1の主張事実が記載され,その内容は,医科大学教授の一審原告が一審被告Y1に対し診察の際のセクハラや名誉毀損等の不法行為をしたとの事実であるから,前提事件の訴状をファクシミリ送信することによりその事実を摘示したと解するとすれば,一審原告の名誉を毀損するものということができるかのようである。
 (ア) しかし,民事訴訟を提起すること自体は,何人も自由にできるのであるが,原告の請求が必ずしも裁判所によって正当として認容されるわけではない。そのことは,原告の請求が従前にない新しい法理論を根拠とする場合のみでなく,請求権の発生要件,障害要件等について実務上争いがなく,要件に該当する事実関係の存否,その法的評価が争点となる事例であっても同様であることは,法律専門家及び民事裁判に継続的に関わる者にとって自明の事実である。
 そして,訴状に請求原因として記載された事実は,その段階での原告の主張,証明できると考えている事実に過ぎず,訴え提起当時報道された事件であっても,最終的には原告の敗訴に終わる事件は多数あることは公知の事実であり,司法記者クラブに属する記者はそのことを熟知しているものと推認される。
 したがって,ファクシミリ送信された前提事件の訴状の写しを読んだ司法記者は,訴えが提起された事実と上記のような性質を有する原告(一審被告Y1)の主張を知る資料として訴状写しを認識し,原告(一審被告Y1)の主張が認められるか否かは訴訟の結果を見なければわからないと理解したものと推認される。
 (イ) また,一審被告Y2がファクシミリ送信した時期も,訴え提起から50日以上が経過し,一審原告に前提事件の訴状が送達され,答弁書が提出されてから1週間余りが経過した後であり,一審原告としても,前提事件の訴え提起につきマスコミ報道がされることを予測して,取材に対する対応を準備できる余裕のある段階に至ってからであった。
 (ウ) そして, 前提事件は,被告とされた一審原告が性同一性障害者に対する医療分野における先駆的立場にある医師であり,埼玉医科大学附属病院における一審原告の医療行為に際しての不法行為の成否が問われている事件であって,社会の正当な関心が寄せられる事件であり,前提事件の提訴自体が報道の対象とされることが予測され,現に裁判所で開廷期日簿の閲覧をした司法記者から原告代理人である一審被告Y2に問い合わせが来ているところから,一審被告Y2において,その報道が適切にされることを目的に,前提事件の訴状の写しを司法記者の閲覧等に供する趣旨で司法記者クラブ幹事社にファクシミリ送信したものであった。
 (エ)  以上のようなファクシミリ送信された相手方である司法記者クラブ所属記者の民事訴訟提起についての認識,ファクシミリ送信の時期,ファクシミリ送信に至る経過に前記認定のとおり,前提事件の提訴は,前記認定判断したとおり事実的・法律的根拠を欠いていることを認識しながら,あるいは一般人において容易に判断ができたのに,あえて提起されるなどの裁判制度の目的を逸脱する不当な訴訟ではないばかりか,一審被告Y2や相代理人が一審被告Y1と打合せをし,一審被告Y2が週刊文春のA記者に本件週刊文春記事について確認するなど相当な準備をして提起したものであることを考え合わせれば,上記ファクシミリ送信によって司法記者クラブ所属の記者に摘示されたのは,前提事件の訴え提起の事実と原告である一審被告Y1が何を請求原因事実としているかの事実であり,一審原告がセクハラや名誉毀損等の不法行為をしたことではないというべきである。
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(続く)

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