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記者会見等の責任 H18. 8.31 東京高裁判決(判旨から 4/5)

前掲
平成18年 8月31日 東京高裁 判決 <平17(ネ)1814号>
から

(続き)
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  (4) 本件記者会見等による名誉毀損について

 上記のとおり,一審被告Y2は,ファクシミリ送信及び本件記者会見により前提事件の訴えを提起した事実とその請求原因事実を摘示したにとどまるものと解される。
 そして,本件記者会見等の相手は司法記者であり,民事訴訟の訴え提起についての前記に判断したような認識を前提にすれば,本件記者会見等による上記のような事実の摘示は,直接これに接した司法記者との関係では前提事件の被告である一審原告の名誉を毀損するものではない。

 もっとも,一審被告Y2が本件記者会見等を行ったのは,その内容の少なくとも一部が報道され,一般国民がそれに接することを予測し,または期待して行ったことは明らかであるから,本件記者会見等の内容に基づく報道に接した一般国民の普通の注意と読み方(視聴の仕方)を基準として,本件記者会見等で摘示された事実が一審原告の社会的評価を低下させるか否かを判断することも必要である。

 一般国民が民事訴訟の提起された事実をどう認識しているかを直接認定するに足りる証拠はないが,次のとおりいうことができる。民事訴訟の提起の報道に接した国民の中にはそのことによって原告の主張する被告の行為が真実であると認識する者が皆無ではないといえよう。また,現代における教育の普及や各種の民事訴訟の原告敗訴の例もしばしば報道されていることからすれば,訴訟であるから原告の主張が必ずしも正当であるとは限らず,裁判所の判断を待たなければ原告の主張の真否は判明しないと一面では理解しつつも,「火の無い所に煙は立たぬ」という諺を想起して原告の主張する事実に近いことが存在したかもしれないと疑いを抱いて受け止める者が相当にあるのではないかと思われる。
これらの事情を考えると,一審原告が診察上のセクハラ及び名誉毀損等を理由として民事訴訟を提起されたとの事実に接した一般国民は,真相は不明であるが,少なくとも一審原告において提訴者からセクハラや名誉毀損等と受け取られるような何らかの行為があったのかもしれないという印象を受けるところ,ことに現代では,診察上のセクハラが破廉恥行為に当たるとの社会通念が形成されつつあるから,本件記者者会見等で摘示されたセクハラ及び名誉毀損等を理由として一審被告Y1が一審原告に対し前提事件を提訴した事実自体は,その限度で一審原告の社会的評価を低下させその名誉を毀損するものといえる。

  (5) 違法性阻却事由,故意・過失の阻却事由について
  一審原告は,医科大学教授の職にあり,かつ,性同一性障害者に対する医療分野における先駆者的立場にある医師であるところ,前提事件の原告である一審被告Y1が請求原因事実とするのは,医科大学附属病院の医療現場における一審原告の患者に対するセクハラや週刊誌記者に対する患者に関する発言についての名誉毀損等の事実であり,かつ前提事件が事実上・法律上の根拠を欠いていることを認識しながら,あるいは一般人において容易に認識できたのに,あえて提起されるなどの裁判制度の目的を逸脱する不当な訴訟ではないばかりか,社会的弱者の人権擁護に資するものとして新潟弁護士会が設けたひまわり基金の運営資金により援助が決定された事件であって,このような一審原告の立場や前提事件の内容からすれば,前提事件の訴えが提起された事実及びその請求原因とされた事実が何かは公共の利害に関する事実に係るものということができる。
  そして,一審被告Y2は,司法記者から問い合わせを受けたことから,そのような前提事件の内容,性質に鑑み,司法記者が事件内容を正確に理解し,報道が適切にされることを目的に本件記者会見等をしたことが認められるから,本件記者会見等の目的は公益を図ることにあったものというべきである。

  前提事件が提訴されたこと,その請求原因事実が訴状に記載され一審被告Y2が本件記者会見で説明した内容であったことは真実である。したがって,本件記者会見等をしたことによる名誉毀損には違法性はなかったと認められる。
ーーーーー
(続く)

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