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合理的な疑い (死体なき殺人・評決)

合理的な疑い (死体なき殺人・評決)

 有名な刑事弁護士が、殺人罪で起訴された被告人のために最終弁論をしていた。
 その事件では、被害者の死体は発見されていなかった。

 弁護人は、ドラマチックに、法廷内の時計の方を向いて、それを指さし、次のように言った。
 「陪審員の皆さん、皆さんがびっくりするニュースをお知らせします。私は、本件の被害者とされている者が生きていることを発見しました! 今から10秒以内に、彼女はこの法廷のドアから、歩いて入ってきます。」  

 重い静寂が法廷をおおい、誰もがドラマチックな登場を待っていた。

 しかし、何も起こらなかった。

 弁護人は、にやにやしながら続けた。
 「まさに、あなた方が、被害者がこの法廷に入ってくることを予期して、ドアの方をじっと見ていたという事実そのものが、殺人が実際に行われたかどうかについて、あなた方が合理的な疑い以上のものを持っているという証拠なのです。」

 自分の賢明さについて悦に入りながら、うぬぼれた弁護人は、無罪んも評決を待つために自信満々で着席した。

 陪審員は裁判官から説示を受けて、法廷から出ていき、そして、戻ってきた。
 ところが、評決は有罪だった。

 裁判官が手続の終了を宣言してから、うろたえた弁護人は、陪審員長を追いかけて、質問した。
 「有罪だって? 君たちは、どうして有罪にできるんだ? 君たちはみんな、ドアの方をじっと見ていたのに。」

 陪審員長は、答えた。

 陪審員長は、何と答えたと思いますか?

★ここで,考えてみてください。















 陪審員長の答

 「ええ、私たちのほとんどの人は、ドアの方をじっと見ていました。でも、私たちのうちの1人は被告人の方をじっと見ていたんです。すると、被告人はドアの方をじっと見てはいなかったのです。」

(コメント)

 出典(内容は一部異なる。原文のままではない。)
  Jess M.Brallierの”Lawyers and Other Reptiles”の64頁以下
  マイケル・エバハート(Michael C. Eberhardt)の『死体なき殺人』("Body of a Crime")(講談社文庫、白石朗訳)の89頁以下
  服部健一『くたばれ! アメリカ弁護士』139頁以下

 刑事裁判では、検察側は「合理的な疑いを超えて」犯罪を立証しなければならない。
 被告人が被害者を殺したことについて「合理的な疑い」がなければ、被害者が法廷に入ってくるかも知れないと思って、ドアの方をじっと見たりはしないはずである。
 しかし、被告人は、自分が被害者を殺したことを知っていたから、被害者が法廷に入ってくることはありえないと思い、ドアの方を見なかったのだというオチである。

 この話は結構有名なようである。

 この弁護人は、被告人に事前に話し、指導しなかったのか、被告人に事前に話したら、本番での被告人の反応が不自然になると思ったのか、などの疑問が残るかも知れない。
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